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求償権とはどのような権利か
不倫慰謝料の求償権というのは、不貞行為により慰謝料を支払った人が、その金額の一部を、共犯者である不倫相手にも負担してもらえる権利のことです。
少し複雑なので、事例を交えて説明いたします。
A子とB男が不倫をし、それがB男の妻であるC美に発覚してしまったケースを考えてみましょう。
C美は離婚をするつもりがないので、夫の不倫相手であるA子だけに300円の慰謝料を請求しました。請求を受けたA子は減額交渉の末、200万円の慰謝料を支払うということでC美に納得してもらいました。A子は約束通り200万円の慰謝料を支払い、不倫問題を解決しましたが、どうも納得がいきません。
不倫はA子とB男の二人が犯したあやまちなのに、どうしてA子だけが慰謝料を払わなければならないのでしょうか。不貞行為によってC美に精神的苦痛を与えたのはA子とB男なのだから、その責任は二人で負うのが道理のはずです。
実はこの不公平感を解消してくれるのが求償権なのです。
不倫はA子とB男の共同不法行為であり、二人は被害者であるC美に対して、それぞれの責任の割合に応じて慰謝料を負担しなければなりません。今回の不倫の慰謝料が200万円で、不倫をした二人の責任の割合が五分五分だった場合、負担部分はそれぞれ100万円(=200万円×50%)ということになります。
しかし、A子はC美への慰謝料200万円を一人で払いました。このように負担部分を超えて慰謝料を支払ったA子は、その超えた部分100万円(=200万円【支払った額】−100万円【負担部分】)を共犯者であるB男に請求することができます。この請求できる権利のことを求償権と言います。
原則、C美がA子に対して負担部分を超える額を請求することには問題がないので、A子は支払い額の一部をC美から取り戻すことはできません。
求償権を行使する時に注意すること
求償権は法的に認められてはいる権利ではありますが、実際に行使するのは簡単ではありません。
A子から求償権を行使されたB男がすぐに100万円を支払えばいいのですが、妻の手前、請求に応じにくいというのが現実です。
もしかしたらB男は、妻の怒りを抑えるために、「誘いをかけてきたのはA子のほうだ」などと弁解しているかもしれません。そうなると妻も、「相手が悪いのにあなたが支払う必要ないじゃない」となり、B男はいっそう支払いづらくなります。
もし支払ってもらえる場合でも、「負担金としては50万円しか払わない。それ以上を要求するのであれば裁判にしてくれ」と開き直られてしまえば、A子は弁護士に依頼して裁判で戦うしかなくなります。しかし、裁判の費用は弁護士への報酬など50万円ほどかかることもあり、たとえ判決で100万円取れても、A子は実質50万円の利益しか得られません。
実際に、裁判費用と取り戻せる金額を天秤にかけ、経済的利益の少なさから求償権の行使をあきらめるかたもけっこういらっしゃいます。
また、奥さんの立場からすれば、不倫問題が解決したあとに、求償の件でA子とB男が会って交渉をしているというのは嫌な気持ちがするものです。これをきっかけに、不倫が再開するかもしれません。奥さんが不安な気持ちになって、A子からの郵便物や電話を夫に取り次がないなど、妨害行為をすることもあります。
このように、求償権の行使は、慰謝料の減額交渉よりも難しいと言えるかもしれません。
慰謝料の減額交渉で活用する方法
求償権は慰謝料を支払ったあとで発生する権利ですが、慰謝料を支払う前、つまり減額交渉の段階で有効に活用することもできます。
慰謝料の問題で示談が成立したあとに、自分の夫(B男)が求償を受けることは、奥さん(C美)にとって他人事ではありません(離婚して他人になる場合は別です)。なんとか求償を防ぎたいと思うでしょう。そこで、慰謝料を請求された側のA子としては、求償権を放棄するのと引き換えに、慰謝料の減額をお願いしてみるのです。
これなら、慰謝料の支払い後にその一部を取り戻すという面倒な手続きをとらずに経済的負担を軽減できます。
ただし、減額交渉の際に、A子がいきなりこの交換条件を持ち出しても、奥さん(C美)を怒らせるだけでしょう。そもそも求償権というのはA子と夫(B男)の間の法的問題ですから、それを奥さん(C美)に直接ぶつけても、「自分の権利ばかり主張して反省の色がない」と悪く受け取られてしまいます。
求償権は一般の人にとって理解しづらい法律概念です。まずはこの権利の仕組みを丁寧に説明し、奥さんの感情を逆なでしないように減額交渉を進めなければならないでしょう。
減額交渉が成功すれば、示談書に求償権を放棄するという文言を加えておくことになります。
詳しくは、不倫の示談書の書き方 をご覧ください。
求償できる理由
不倫は、民法の共同不法行為にあたり、不倫をした男女の損害賠償義務は不真正連帯債務となります。
不真正連帯債務の場合、各支払い義務者は、債権者(被害者)に対して全額を支払う義務を負いますが、従来は、共同不法行為者のどちらが支払っても負担部分はないと考えられてきました。つまり求償権は認められていなかったのです。
しかし、昭和41年11月18日の最高裁判決以降、不真正連帯債務にも負担部分があり、負担部分を超えて支払った債務者から他の債務者に対する求償が認められるようになりました。
- 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
- 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
負担部分については、責任の程度に応じて裁判官が決めることになります。その際、不倫をした男女のうち、どちらが積極的に誘ったかなどが考慮されます。
例えば、責任の割合が男性60%、女性40%で、女性が慰謝料を全額支払った場合は、女性のほうから男性に対して求償をし、支払った慰謝料の60%の金額を取り戻すことになります。
求償権の時効は何年か
判例では、求償権は当事者間の公平の観点から認められたものであり、損害賠償請求権とは性格の違う権利であるため、不法行為の時効期間に関する規定(知ってから3年)は適用されない、と判断されたケースが多いです。
そのため、求償権の時効は、一般債権の時効期間である10年と解釈されます。
まとめ
最後に、不倫慰謝料の求償権についてまとめておきます。
- 求償権は、不倫をした人が慰謝料を支払ったあとで行使する権利である
- 行使する相手は、慰謝料の請求者(被害者)ではなく不倫相手(共犯者)である
- 求償権を放棄するかわりに減額を要求することもできる
- 求償権の時効は10年である
求償権の性質を十分に理解し、減額交渉の段階でうまく使うか、慰謝料の支払い後に権利を行使するかをよく検討してみることが大切です。
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