このページの目次
- ダブル(W)不倫と普通の不倫の違い
- 両方の配偶者にバレたが、どちらの夫婦も離婚しない場合
- 一方の配偶者にしかバレておらず、どちらの夫婦も離婚しない場合
- 両方の配偶者にバレて、どちらかの夫婦が離婚する場合
- 両方の配偶者にバレて、どちらの夫婦も離婚する場合
- まとめ
1. ダブル(W)不倫と普通の不倫の違い
ダブル(W)不倫とは、既婚者同士の不倫のことです。既婚者と独身者が不倫をする場合とは異なり、不倫者双方の配偶者(妻/夫)が被害者になるわけですから、誰が誰に対して慰謝料を請求するのか、といったように権利関係がとても複雑になります。
では、既婚者同士の不倫が慰謝料問題に発展した場合、どのような点に注意すべきでしょうか? 実はダブル不倫ならではの意外な落とし穴があります。状況ごとに加害者と被害者、双方の視点から見ていきましょう。
2. 両方の配偶者にバレたが、どちらの夫婦も離婚しない場合
まずはイラストを見てください。A子とB男が不倫をして、お互いの配偶者(C美とD郎)に不倫がバレたケースです。
ダブル不倫の被害者であるC美とD郎は、加害者であるA子とB男に慰謝料を請求できます。例えば、C美は自分の夫のB男と、その不倫相手であるA子の両方に慰謝料を請求する権利があるということです。
しかしイラストを見ると、C美はA子にだけ慰謝料を請求し、B男には請求していません。離婚をする気のないC美が、今後も生計をともにしていく夫のB男から慰謝料をもらったところで、実質的な利益がないからです。これは、D郎にとっても同じだと言えますね。
ですから、双方の配偶者にダブル不倫がバレているものの、どちらの夫婦も離婚をしないというケースでは、イラストで示したような慰謝料請求パターンになることが多いでしょう。
2-a. よくある慰謝料プラスマイナスゼロの解決
A子は、B男の妻であるC美から慰謝料を請求されましたが、夫のD郎もB男に慰謝料を請求しています。
仮にA子が請求された金額とD郎が請求している金額が同額の300万円だったとしましょう。
D郎は300万円をとることができても、同じ家計で生活しているA子が同額を支払うことになれば、経済的な利益を実感することはできないでしょうし、「不倫相手をこらしめた」という達成感も得にくいと思います。AD夫婦の財布とBC夫婦の財布の間を「300万円が行って帰ってきただけ」とも言えますからね。当然、これはC美にも当てはまります。
このようなケースでは、当事者4人で話し合いをした結果、「痛み分け」ということになって、慰謝料なしで解決することがけっこうあります。
このように、実質的にはプラマイゼロになるようなケースでも、不倫をした男女の責任割合がいつも1:1であるとは限らないため、責任割合の高い不倫者のほうが、その分の慰謝料を少し負担することがあります。
また、経済的利益がなくても、誓約書(合意書)をかわして解決しておけば、不倫の再発を防止することができるので、請求者にとってはメリットがあります。実際、私がご相談をお受けしたお客様の中にも、そのように解決されたかたが多くいらっしゃいます。
2-b. 加害者(請求を受けた側)は離婚をしないことが大切
加害者であるA子とB男にとって最良の解決方法は慰謝料なしで済ませることでしょう。
そのためには、配偶者であるC美やD郎と離婚をしないようにすることが重要です。被害者二人に反省の気持ちをきちんと伝えて、夫婦関係の修復につとめましょう。
C美とD郎に「慰謝料を取り合っても無意味だし、二人とも反省しているから今回は許そう」と言ってもらえるよう、4人でよく話し合うことが解決への近道と言えますね。
2-c. 被害者(請求をする側)はなるべく裁判を避けたほうがよい
二人の被害者の請求額が同じくらいであるならば、下手に裁判を起こして費用と時間を無駄にしないよう注意したいものです。慰謝料が行ったり来たりするという茶番劇を、わざわざ神聖な法廷でくりひろげる必要はありません。
経済的利益を求めるよりも、今後、ダブル不倫が継続したり、再発したりしないように、4者で示談書を作っておくことが大切です。ある程度は不倫の抑止力になるでしょう。
ダブル不倫の示談書についての解説
3. 一方の配偶者にしかバレておらず、どちらの夫婦も離婚しない場合
A子とB男のダブル不倫がC美にバレて、C美はA子に慰謝料を請求しました。しかし、D郎は不倫のことも慰謝料請求のことも知らないというケースです。
C美は離婚をする気がないので、B男に対しては慰謝料を請求していません。
このケースでは、A子の夫であるD郎に対して、ダブル不倫の事実を伝えるかどうかで結果が大きく変わってきます。A子とC美、それぞれの立場から注意点と解決パターンを見ていきましょう。
3-a. 慰謝料の請求を受けたA子は夫に話すべきか
A子がまず考えるべきことは、夫のD郎に事実を打ち明けるかどうかです。
夫に知られずに解決したい
ダブル不倫はしたものの、D郎との夫婦関係を壊したくないという気持ちがある場合は、秘密にしたまま慰謝料問題を解決したいと考えるのが普通でしょう。
ただし、請求者(C美)との交渉では、それが弱みになって減額がうまくいかないこともあります。
例えばC美に対して、「夫には秘密にした上で、減額もしてほしい」などと回答したら、C美はどう思うでしょうか。「それは虫が良すぎる」と、いっそう腹を立てて、秘密にするかわりに、より高額な慰謝料を請求してくるかもしれません。
もちろん、あからさまに口止め料を請求すれば脅迫になる可能性があります。しかし、A子のほうも夫に黙っていてもらいたいという思いがありますから、相場よりも高額の慰謝料を仕方なく払ってしまうというケースも少なくありません。
このように、配偶者にダブル不倫を知られずに問題を解決する場合、慰謝料がある程度は高額になってしまうことを覚悟しておく必要があります。
@ ある公務員の男性(60歳代)は、妻にも職場にも不倫をしたことを言わないという守秘義務厳守を条件に慰謝料600万円を支払いました。
A ロサンゼルス在住の日本人男性(40歳代、システムエンジニア)が、SNSで知り合った日本人女性と不倫をしました。二人とも既婚者であり、女性の夫が不倫に気づいて慰謝料を請求しました。実家が世田谷にある男性は、来日したおりに不倫相手の女性と品川のホテルの喫茶室で待ち合わせをしました。女性の夫は中国に赴任中なので、夫の友人が代理人として同席しました。男性は不倫相手の女性と別れることを約束し、1週間後に300万円を女性の夫の口座に支払いました。合意書にはロスの住所ではなく、世田谷の実家の住所を書きました。ロスにいる妻に不倫の事実を知られることだけは避けたかったようです。
また、文書の受け取り方にも注意しましょう。文書を普通郵便で自宅に郵送されると、配偶者に見られてしまう危険があるからです。
請求者に頼んで、適切な方法で郵送してもらいましょう。
文書を安全に受け取る方法
- 本人限定郵便……本人が運転免許証などの身分証明書を郵便局に提示して受け取る方法です
- 郵便局止め郵便……差出人が電話などで郵便物を〇〇郵便局に送付したと伝言し、本人が受け取りに行けばいいので、郵便物が全く自宅には送付されません
- 知人、友人などの住所を指定して、「気付(きづけ)」で送付してもらう
※ 職場への送付には注意が必要です。「親展」で送付したとしても、一部の銀行などでは上司立会で開封される場合があります。職場の状況を考慮し、安易な送付はやめたほうがいいでしょう。
夫に打ち明けるメリット
夫に黙ったままで解決できればそれにこしたことはありませんが、上述したように、秘密を守り続けることにはデメリットもあります。
では、夫にダブル不倫の事実を打ち明けることにはどんなメリットがあるのでしょうか。
もし、夫に正直に話し、許してもらえるならば、慰謝料問題で味方になってくれる可能性があります。
例えば、A子一人で慰謝料を工面するのは大変でしょうが、夫に打ち明けて関係修復の道に進めば、「仕方がない」と、金銭的な協力が得られるかもしれません。
さらに、夫のD郎が不倫相手のB男に対して慰謝料を請求することもできるようになります。これは、2の項目で解説した状況と同じですね。話の進め方しだいでは慰謝料なしで解決することもできるでしょう。
3-b. 慰謝料を請求したC美は相手の夫にバラすべきか
C美としては、自分たちの夫婦関係が危機に瀕しているのに、不倫相手の夫婦関係が無傷のままというのは気にくわないかもしれませんね。しかし、だからと言ってD郎に告げ口するようなまねは慎んだほうがよいでしょう。
もしD郎がダブル不倫の事実を知ってしまったら、2の項目で解説したように、お互いに慰謝料を請求し合うという状況になり、経済的利益が実質的に得られなくなる可能性があります。
ですから、A子がD郎に黙っていてくれるように頼んできている場合は、それに協力してあげる方向で話を進めていきましょう。
A子は加害者であるということと、それを秘密にしてもらっているということで二重に負い目を感じているはずですから、C美の請求通りに慰謝料を支払ってくれる可能性が高まります。
ただし、ここで注意しなければならないのは、A子が支払えないほどの法外な慰謝料を請求しないようにすることです。どんなに負い目があっても、ない袖は振れませんし、支払いに窮すれば結局、夫に打ち明けざるを得なくなるからです。
また、「支払わなければ、あなたの旦那に言う」などと、黙っていることと引きかえに金品を要求してしまうと脅迫や恐喝の罪に問われる危険がありますので、言動には気をつけなければなりません。
4. 両方の配偶者にバレて、どちらかの夫婦が離婚する場合
ダブル不倫の結果、どちらか一方の夫婦が離婚をすることになると、慰謝料の請求・被請求の関係がさらに複雑になります。
イラストではA子とD郎の夫婦が離婚をすることになりました。では、それぞれの立場からダブル不倫の慰謝料問題について検討していきましょう。
4-a. 加害者で離婚をするA子は二重に請求される
A子は離婚をしたことで、夫のD郎からは離婚慰謝料、不倫相手の妻であるC美からは不倫慰謝料を請求されてしまいました。D郎とC美、両方に支払わなければならないので、経済的な負担は一番大きくなります。
4-b. 加害者で離婚をしないB男は妻からは請求されない
B男自身は離婚をしないので、不倫相手の夫であるD郎から不倫慰謝料を請求されただけです。しかし、D郎の結婚生活を破壊した責任は重いと言えますから、AD夫婦が離婚をしない場合に比べて慰謝料は高額になるでしょう。
4-c. 被害者で離婚をしないC美は慰謝料を請求しても利益はあまりない
C美は夫を許し、夫婦関係を継続するつもりなので、B男には不倫慰謝料を請求しません。その分、怒りの矛先はA子に向かい、慰謝料をきっちり支払わせたいと考えています。
ただし、生計を共にするB男が、D郎へ高額の慰謝料を支払うことを考えると、A子から慰謝料がとれても(こちらが離婚をしていないので、慰謝料は少なくなります)実質的な利益は見込めないかもしれません。
4-d. 被害者で離婚をするD郎は不倫慰謝料と離婚慰謝料を請求できる
AD夫婦の離婚の責任は、不倫をしたA子にあるわけですから、D郎はA子に対して離婚の慰謝料を請求することができます。また、不倫相手のB男に対しては不倫慰謝料を請求することができます。
しかし、A子はC美からも慰謝料の請求を受けているので、A子がよほど財産を持っていない限り、高額の離婚慰謝料を支払うのは無理でしょう。ですから、現実的には、離婚原因を作ったB男に対して、高額の不倫慰謝料を請求することになると思います。
※ 平成31年2月19日に最高裁で不倫相手への離婚慰謝料請求を否定する判決が下されました。不倫相手への損害賠償請求は、原則(特別な事情がない限り)、不倫慰謝料ということになるので、不倫の事実と相手を知ったときから3年以内に請求するようにしましょう。
5. 両方の配偶者にバレて、どちらの夫婦も離婚する場合
ダブル不倫の結果、どちらの夫婦も離婚をすることになると、4人がそれぞれ弁護士をつけて慰謝料や財産分与の問題に向き合わなくてはならなくなります。
最悪の事態になった相談案件
イラストではAD夫婦とBC夫婦がそれぞれ離婚をすることになりましたが、ここでは、私が扱った同じような案件についてご紹介しておきます。
先日、ダブル不倫でご相談に来られたお客様から、久しぶりにお電話をいただきました。
このお客様は以前ご相談に来られた際、旦那さんの不倫相手への慰謝料請求を検討していました。すでに弁護士さんに引き継いでいた案件だったので、私としてはとっくに解決したものだとばかり思っていたのですが、最悪のパターンになってしまったようです。
お客様がおっしゃるには、当初、相手女性の夫には知られないように慰謝料を請求し、穏便に解決するつもりだったそうです。ところが、相手女性の夫にも不倫がばれて、結局、両方の夫婦が離婚をすることになってしまいました。
初めのころは、お互いにあまり大ごとにすることなく、解決できたらとの思いでした。しかし、不倫を知った相手方の夫は感情がおさまらず、裁判にしたのです。
不倫をした夫も、訴訟を起こされたからには弁護士を雇って身を守らなければなりません。「責任の大半は相手方の夫にある。この夫婦は2年前からすでに夫婦関係が悪かった。夫婦の不和の原因は夫の性格の悪さ、浮気癖にあり、夫婦関係はすでに破たんしている」などと相手方夫婦の関係を暴露し始めました。
さらに、「離婚したいのだが、妻が応じない」とか「早く別れてあなたと結婚したい」とか、不倫者同士のメールのやりとりも裁判の証拠として提出され、双方の夫婦の目にさらされることとなりました。
不倫者同士が、お互いの妻、夫のことをけなし、バカにしたようなメールを交換しているわけですから、それを知った被害者側の妻、夫は「本当にそう思っていたのか」と、配偶者の言動に不信感をつのらせる一方です。
このようにW不倫の裁判は泥沼化し、双方の夫婦は元のような関係に戻ることが難しくなってしまいました。そして、どちらの夫婦も離婚を決意するに至ったのです。
連絡をくれたお客様は、「財産分与、子どもの養育費、慰謝料、別居中の生活費、婚姻費用の分担金、ローンの支払いが終わっていない残債務の問題など、このままいけば終わるまであと数年かかるかもしれない」と、お電話でグチをこぼしていました。
利益相反行為
初めに夫婦で同じ弁護士に相談していた場合でも、離婚をするとなると、不倫をした夫の側は、慰謝料や財産分与などを妻から請求される立場になりますから、夫側の弁護を妻と同じ弁護士が引き受けるわけにはいかなくなります(利益相反行為)。
そのため、夫は新たに別の弁護士に依頼して問題の解決をはかることになります。
これは相手方夫婦も同じなので、当事者4人がそれぞれ弁護士を立てて争わなければならないということです。
「浮気をしたら、慰謝料が○○○万円取れます」ということだけを強調する弁護士さんはあまり信頼できません。それよりも、「相手方の配偶者が知ったときは、最悪、双方の夫婦が離婚をすることになり、ドロ沼裁判になる可能性もあります」といったように、ダブル不倫の慰謝料請求ならではの危険性も説明してくださるような弁護士さんのほうが安心できるでしょう。ご依頼の際の参考にしてください。
まとめ
最後にダブル(W)不倫の慰謝料請求に関して注意すべきポイントをまとめておきます。
- どちらの夫婦も離婚をせず、お互いの請求額が同程度なら、プラマイゼロ、つまり慰謝料なしでの解決もあり得る。
- 慰謝料請求者は、不倫相手の配偶者が何も知らないときは、秘密にしたまま話を進めたほうが都合がよい。
- 慰謝料の請求を受けたとき、自分の配偶者に打ち明けることがメリットになることもある。
- 離婚をすることになると、自分の配偶者からは離婚慰謝料、不倫相手の配偶者からは不倫慰謝料を請求され、支払いの二重苦に陥ることになる。
ダブル不倫の問題を穏便に解決するというのは困難なことかもしれませんが、お互いの夫婦が関係修復の道に進めば、いくらか光明が見えてくるはずです。
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