不倫慰謝料に関する主な判例
判例は、裁判が起きたときに、似通った裁判ではどのような判決がでたのか、慰謝料金額はいくらぐらいが妥当かの参考となります。
互いの合意による解決(示談)であれば、示談金額はいくらでもいいと言えますが、裁判に持ち込まれた場合、当事者双方による示談で解決したときの金額よりも安いようです。
夫や妻の不貞行為が発覚し慰謝料を請求するときに、その根拠となる判例を内容証明に書いておくと効果が増します。
そこで、これからご紹介する判例には、慰謝料請求額と実際に決まった金額を示しておきました。請求額と決定額に大きな差があることがお分かりになると思います。
慰謝料の金額について、より深く知りたいというかたは、公的資料をもとに解説した、不貞行為・離婚の慰謝料相場のページもあわせてご覧ください。
不貞相手への慰謝料請求に関する判例
●判例(昭和61年、横浜地方裁判所)
女性との交際は、夫が主導したものであった。
夫が女性に走ったことにつき、妻にも落ち度や有責の疑いがある。
請求⇒女性に対し慰謝料1000万円を請求。
判決⇒慰謝料150万円が相当。
●判例(昭和60年、東京高等裁判所)
妻が不貞して、相手男性が慰謝料を支払った例。
妻は夫の経営する会社の従業員と肉体関係をもった。
請求⇒従業員であった男性に対し慰謝料500万円を請求。
判決⇒慰謝料200万円が相当。
●判例(平成10年、東京地方裁判所)
夫婦には、10年以上性的関係がなかった。
妻は男性と知り合って4年後に性的関係をもった。
夫の抑止にもかかわらず、妻は男性と同棲した。
請求⇒男性に対し慰謝料800万円及び弁護士費用147万円を請求。
判決⇒慰謝料100万円が相当。
●判例(昭和60年、浦和地方裁判所)
妻と関係をもった男性が 、夫が交際の中止を求めるにも係わらず妻との交際を続けた。
男性は執拗に女性の家に電話をかけ続けた。
男性は、女性の夫婦関係を悪化させれば女性は自分のところに来るものと考え、
夫の勤務先に性的関係を記載したハガキを10通送った。
男性と妻は同棲に至った。夫婦関係は破綻した。
判決⇒慰謝料500万円を認めた。
●判例(平成3年9月25日、横浜地裁)
夫婦は昭和46年に結婚し、子供が2人いる。
夫は同じ職場での女性と肉体関係をもつようになった。
当初女性は妻子があることは知らなかったが 、妻子の存在を知ってからも、肉体関係は継続していた。
その後、妻は不貞行為を知り、3年ほど不貞関係は中断したが、再度男女関係をおこなうようになり夫婦は完全に別居に至った。
請求⇒妻は不貞相手の女性に300万円の慰謝料を請求。
判決⇒300万円の慰謝料の支払い。
(理由)被告が妻の存在を知ってからも不貞行為を続け3年間は不貞を中断したが、再び不貞関係を継続したこと。
夫婦の婚姻関係が破綻したこと。
●判例(平成11年、大阪地方裁判所)夫が不貞して、相手の女性が払った慰謝料
夫は女性と20年近く交際を続けていた。
その間、妻に対し女性との関係を話したり、妻と女性を比較するような話をしていた。
夫が女性と同棲を始めた。
請求⇒女性に対し慰謝料と同棲の差し止めを請求。
判決⇒慰謝料300万円が相当。但し、同棲差し止めは棄却。
●判例(平成4年12月10日、東京地裁)
夫婦は平成元年に結婚し、子供が1人いる。
職場(百貨店)の部下である女性と平成3年ころから肉体関係を持つようになり、その後約8ヵ月に渡り、不貞を続けた。
親族の力添えで、AB夫婦間の関係修復が図られた。
請求⇒妻は不貞相手の女性に500万円の慰謝料を請求。
判決⇒50万円の慰謝料支払い。
(理由)配偶者と第三者の不貞行為において、配偶者が主導的な役割を果たした場合、不貞についての主たる責任は 、不貞を働いた配偶者にあり、特段の事情がない限り、不貞の相手方である第三者の責任は副次的である。
夫婦の婚姻関係破綻の危機が、不貞関係のみとは言えず、既に不貞関係は解消されており、夫婦関係は修復されている。 また不貞相手は職場を退職し、社会的な制裁を受けている。
不倫相手に対する離婚慰謝料の請求を認めなかった判例
不倫が原因で離婚をした場合、請求者はまず、誰に対して慰謝料を請求すべきかを決めなければなりません。元配偶者か、不倫相手か、あるいはその両方かです。
もし元配偶者に請求するのであれば、さらに二つのパターンを検討する必要があります。それは、不倫に対する慰謝料を請求するのか、離婚に対する慰謝料を請求するのか、ということです(前者を不倫慰謝料、後者を離婚慰謝料としておきます)。
どちらも同じように思われるかもしれませんね。しかし、これには大きな違いがあるのです。
不倫慰謝料と離婚慰謝料の違い
まず時効の起算点が違います。不倫慰謝料は請求者が不倫の事実と相手を知った時から3年で時効になりますが、離婚慰謝料は離婚をした時から3年です。
一般的には、不倫の発覚後に離婚をすることが多いでしょうから、元配偶者に請求する場合は、時効の起算点があとになる離婚慰謝料を選択することになるでしょう。
では、不倫相手に請求する場合はどうでしょうか。不倫相手に対しては発覚後3年以内に不倫慰謝料を請求するのが一般的です。また、従来は不倫慰謝料の請求権が時効で消滅している場合に、離婚慰謝料として元配偶者と不倫相手の第三者に請求するケースも見られました。
不倫慰謝料と離婚慰謝料とは別の考えだということの明確な基準が最高裁でも示されていなかっただけに、両方が混在し、区別されないまま請求が行われ、慰謝料が決められていたのです。
しかし、平成31年2月19日に最高裁は、不倫の相手となった第三者に対して離婚慰謝料を請求することは認めないという判断をしました。
不倫相手への離婚慰謝料は特別な事情がない限り請求できない
最高裁は、離婚の慰謝料に関して重大な判断をしました(平成31年2月19日)。
「夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対し、特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」
これはどういうことでしょうか。事件の経過を見ていきましょう。
ところが、平成22年5月頃に妻の不貞を知った。妻はそのころには既に不貞関係を解消していたが、夫婦関係はこじれて別居することになった。妻はその後も不倫相手とは連絡をとらなかった。
平成27年に離婚調停が成立し夫婦は離婚した。元夫はすぐ不倫相手に慰謝料500万円を請求する裁判を起こした。
下級審は、既に終了した過去の不倫がその後の離婚の原因になったとして200万円の慰謝料の支払いを命じた。
しかし最高裁は、離婚は夫婦間で決めることがらなので、離婚に対する慰謝料を第三者である不倫相手に請求することは、特段の事情がない限りできないと判断した。
妻の不倫が原因で離婚をした男性が、妻の不倫相手に対して慰謝料を請求した裁判です。本来であれば、不倫慰謝料を請求するところでしょうが、不倫発覚から既に5年がたっていたため、時効になっていました。そこで男性は、離婚したことを理由に、妻の不倫相手に対して慰謝料を請求したのです。
裁判の争点は、過去の不倫が原因で夫婦が離婚をした場合に、不倫相手の第三者にまで離婚の責任を負わせる必要があるのか、というものでした。
これについて最高裁は、特段の事情がない限り、責任を負う必要はないと、初めての判断を示しました。
つまり、離婚による婚姻関係の解消は夫婦間で決めることがらなので、単に不貞行為をしたというだけで、第三者の不倫相手に離婚の責任を負わせることはできないということです。ただし、不倫相手が夫婦を離婚させようとして婚姻関係に不当に干渉するなど、特別な事情がある場合は別です。
従来は、下級審の判決と同じように不倫相手の責任を認めるケースがほとんどでしたが、今回、最高裁はこれまで曖昧だった不貞慰謝料と離婚慰謝料の違いについて、一歩踏み込んだ判断をしました。今後、不倫相手の第三者に対して、離婚を理由に慰謝料を請求するのは難しくなるでしょう。
ですから、不倫相手から慰謝料をとりたいのであれば、離婚に対する慰謝料ではなく、不倫に対する慰謝料を、発覚から3年以内(時効になる前)に請求することがより重要になってきます。今回の最高裁の判決でそのことが明確になりました。慰謝料を請求する際は注意したいですね。
不倫慰謝料の算定に離婚が考慮されなくなるわけではない?
これまで不倫慰謝料を算定する際に、夫婦の離婚が慰謝料の額に大きく影響してきましたが、今後その影響が小さくなる、ということはないと思います。
不倫によって夫婦関係が破たんすれば、それだけ大きな損害が生じたということになりますから、やはり、夫婦関係が修復できない場合の不倫慰謝料は200万円〜300万円と、離婚をしない場合に比べて高額になるでしょう。
特別な事情により不倫相手の責任が認められる可能性
不倫相手への離婚慰謝料請求が認められる「特段の事情」とは、具体的にはどんなケースが考えられるでしょうか。
例えば、不倫が発覚して示談が成立した後も密かに不倫関係を継続していた、というケースがよくあります。こうした悪質性の高い不貞行為が繰り返され、離婚に至った場合などは、特別な事情として不倫相手も離婚の責任を負うことになるかもしれません(あくまで予想です)。
今後の裁判で具体的に明らかになってくるでしょう。
不貞の慰謝料請求が生じる様々な状況
職場での不倫
職場では、既婚者である男性が部下の女性と不倫をするケースがよくあります。不倫が発覚すると女性が職場を辞めることが多いようです。
男性が部下の女性を積極的に誘ったこと、結婚生活が続いていること、女性が退職して不倫の再発のおそれがないことから、慰謝料を50万円とした判例があります(東京地裁平成4年12月10日判決)。
この判例と似た状況であれば、慰謝料の請求を受けた側は、50万円に減額してくれるよう相手方に提案してみるとよいでしょう。
妻が不倫をして妊娠・出産した場合
妻のほうが浮気をして相手の子を妊娠・出産したときは、夫の精神的苦痛が大きいと判断され、慰謝料は増額される傾向にあります。
夫の側からすれば、妻の不倫によって生まれた子が自分の戸籍にのり(嫡出推定)、親子関係不存在の訴えなど新たな争いに巻き込まれることにもなるわけですから、当然といえるでしょう。
肉体関係の回数が慰謝料に影響
判例では、1回〜3回程度の肉体関係では、回数は「少ない」とされ、20回程度の肉体関係があれば、「多い」と判断されています(岐阜地裁平成26年1月20日判決)。
回数が多いほど不貞行為による精神的被害は深刻と評価され、慰謝料は多くなります。
しかし、関係が密室で行われているわけですから、正確にカウントするのはちょっと難しいですよね。そこで、メール、写真、日記などの証拠収集が重要になってくるのです。
証拠について詳しく知りたいかたは、浮気・不貞行為の証拠をご覧ください。
相場に関しては、不貞が1回だけの場合、慰謝料は20万円〜50万円ほどであるとされていますが、これを裁判で争うと弁護士報酬だけでも50万円かかってしまいます。
それなら裁判など起こさずにさっさと20〜50万円を支払い、当事者同士で示談をして解決したほうが賢明といえますね。
その際は、二度と請求されないように示談書を残しておきましょう。さらに公正証書にしておけば判決と同様の効力が得られますから、最良の解決策といえます。
示談書作成に関して詳しく知りたいかたは、不倫の示談書の書き方をご覧ください。
ご自身での作成が難しいと思われるかたは、弁護士や行政書士に相談してみるのもよいでしょう。
●判例(東京地裁平22・9・28)
請求額:500万円
認容額:150万円
別居の有無:同居
減額の理由:不貞の回数が3回と少ないこと、不貞関係がすでに解消されていると評価できること。
未成熟子がいる
夫婦に未成熟子(親が扶養する義務のある子)がいることはおおむね慰謝料増額の理由となります。
子にとって父親の存在が必要な時期に、不貞者がその行為によって親子の接触を妨害することは、子の生育にも悪い影響を与えます(東京地方裁判所平成22・4・27)。
探偵社の調査費用
探偵社の調査費用は認められるのでしょうか。
探偵社に浮気調査の依頼をし、調査費として100万円以上を支払うかたも少なくありません。探偵社費用と弁護士費用の合計が200万円を超えると経費倒れになる可能性があります。
しかし、目的が経済的利益ではなく、不倫交際を止めさせて夫婦関係の修復をはかることにあるのならば、いたしかたないともいえます。
判例では、不貞行為の立証に必要な調査費用は、その必要性と相当額の範囲で認められることもあります。
調査費用157万5000円のうち、100万円を認めた判例があります(東京地方裁判所 平23・12・28)。
裁判では、探偵社の調査費用が高額であるときは認めてもらえないことも多いので、示談交渉の際に、探偵社の領収証を相手方に直接見せて、支払いを認めてもらったほうが早い場合もあります。
慰謝料が認められるかどうかの境界線
慰謝料を請求するときには、ある男女の交際がそもそも不貞行為といえるのかどうか、という点も重要になってきます。肉体関係のあるなしにかかわらず、慰謝料が認められるケースもありますので、請求できるかどうかの境界線をしっかり押さえておく必要があります。
その点について、より詳しく知りたいかたは、不倫慰謝料の定義のページもあわせてお読みください。
肉体関係がなければ慰謝料請求はできないのか?
近時の判例は肉体関係、性交渉がなくてもそれに類似した行為が続き、妻が精神的苦痛を受ければ、慰謝料請求を認めるという判例も出てきています。ただし、金額は少ないと考えておいたほうがいいでしょう。
たとえば、妻が夫の不倫相手に慰謝料の請求をし、肉体関係までは確認できないものの、慰謝料44万円の支払いを命じたという判例があります(平成26年3月、大阪地方裁判所)。
今後、このような判例が増えてくるでしょう。
EメールやLINEで熱愛感情を伝えあっていたケース
「不貞」行為までは認められなかったものの、「愛している」などとEメールやLINEでメッセージのやり取りをしていたことが「不法」行為と判断されたケースがあります。
慰謝料請求事件 判決 一部認容
事件番号:平23(ワ)19363号
文献番号:2012WLJPCA11288006
原告が、被告と原告の元夫が不貞関係にありそうな、婚姻関係の継続に支障を来すような行為を行い、原告の婚姻関係が破壊されたなどと主張し、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料500万円及び遅延損害金の支払を求めた事案。
原告の元夫と被告のメールから原告の元夫と被告との不貞関係の存在を推認できず、その他の証拠を総合しても、不貞関係を明確に認定できないが、被告がメールを送付したことは、原告らの婚姻生活の平穏を害し、社会的相当性を欠いた違法な行為であり、被告は、原告に対し不法行為責任を負うというべきとし、慰謝料30万円及び遅延損害金の限度で請求を認容した。
一方で、Eメールなどは認めないとする判例もあります(東京地方裁判所 平成25年3月15日)。
実際に、キス、抱擁、親密な熱愛メールのやり取りがバレて、奥さんやご主人に警告されると、「接触はしたけど肉体関係はなかった」と言い逃れをする不倫者が多いのです。
不倫の交際を止めさせたいと考えている妻・夫は、上記判例を活用し、内容証明に加筆するとよいでしょう。
書き方がわからないというかたは、内容証明の書き方を参考にしてください。
着信があれば、この番号から折り返しますので、電話に出られるようにしておいてください